北欧に造詣の深い、ジャーナリストの萩原健太郎さんをお招きして、北欧デザインやライフスタイルについてうかがいます。毎月1回、第4金曜日の更新です。
萩原健太郎のDESIGN FROM SCANDINAVIA
第二回
今あらためてアルヴァ・アアルトについて
第一回の「萩原健太郎のDESIGN FROM SCANDINAVIA」は、僕が照明監修を務めたEテレの名作照明ドラマ『ハルカの光』がテーマでした。
月曜日の19時台の放送で、Eテレではめずらしいドラマでありながらも、おかげさまで高視聴率を記録することができました。
その理由の一つとして、第一話に登場した名作照明がアルヴァ・アアルトの「ゴールデンベル」だったからなのでは、と思っています。
北欧のなかでも人気の高いフィンランドで、しかも紙幣や切手に肖像画が描かれるほどの同国を代表する建築家で、さらに、時代を問わないタイムレスなフォルム、ランプから放たれるやさしくあたたかな光……もう、愛される理由しかありません(笑)
2011年に発表した僕の著書に、『北欧デザインの巨人たち』(ビー・エヌ・エヌ新社)という一冊があります。
北欧の3人の巨匠、デンマークのアルネ・ヤコブセン、スウェーデンのエリック・グンナール・アスプルンド、フィンランドのアルヴァ・アアルトという3人の巨匠の建築を訪ねたり、ゆかりのある人物に話を聞いたりしてまとめたエッセイです。
ヤコブセンは個人的に好きで、ヤコブセンもアアルトも憧れたアスプルンドはラスボスのようで、それに対して、アアルトには地味な印象しかありませんでした。
でも、その印象はフィンランドを旅するごとに変わっていきました。
だって、アアルトが亡くなって、そろそろ半世紀になろうというのに、今も彼が設計した多くの建物は現役で、家具や照明、食器などはフィンランドの各家庭に一つはあるといわれているのです。すごくないですか? 建築、デザインなどというカテゴリーを越えて、もう偉人というか……。少なくとも、日本にはそのような人はいないと思います。
アアルトが設計し、彼の名を冠した「アアルト大学」で学生時代を過ごし、
アアルトが設計した「アカデミア書店」で本を選び、彼の名を冠した「カフェ・アアルト」でお茶をしながらページをめくり、
アアルトが内装を手がけた「サヴォイレストラン」でディナーを味わい、
アアルトが設計した「フィンランディア・ホール」でコンサートを聴く。
そして自宅に帰れば、アアルトがデザインした照明のあかりのもと、椅子でくつろいだり、フラワーベースに花を生けたり、妻のアイノがデザインしたタンブラーでお酒などを嗜んだりしながら、一日の出来事を語り合うのです。
ヘルシンキのヴィンテージショップ「ヴァンハー・ヤ・カウニスタ」(2018年に閉店)のオーナー、カティ・エロの自宅のダイニングでは、アルヴァ・アアルトの家具が使われていました
フィンランドのテキスタイルデザイナー、ヨハンナ・グリクセンの自宅のダイニング。テーブルクロスは、アルヴァ・アアルトのデザインによる「シエナ」
フィンランドのデザイナー、アーティストのヘイニ・リータフフタの自宅のリビング。アルヴァ・アアルトのフラワーベースが空間のアクセントに
萩原 健太郎
萩原健太郎
http://www.flighttodenmark.com
ジャーナリスト。日本文藝家協会会員。1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。著書に『北欧の絶景を旅する アイスランド』『フィンランドを知るためのキーワード A to Z』(ネコ・パブリッシング)、『北欧とコーヒー』(青幻舎)、『にっぽんの美しい民藝』『北欧の日用品』(エクスナレッジ)、『北欧デザインの巨人たち あしあとをたどって。』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『ストーリーのある50の名作椅子案内』『ストーリーのある50の名作照明案内』(スペースシャワーネットワーク)などがある。
店長カトーより
アルヴァ・アアルトが、北欧モダンデザインの巨匠たちの中でなんとなく地味な印象だった、というのとてもわかります。私は美大で近代建築史の勉強をしたのがキッカケでガラリと見え方が変わりました。「もうダサい!」と思われた前時代的な素材をあえて使って、だれよりもクールな製品を生み出したんですから。なんてアバンギャルド。このおもしろさを知れたのも知識のおかげです。
次週「店長カトーの北欧だより」では、世田谷美術館で開催中の「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」のレポートをお送りします。どうぞお楽しみに。