萩原健太郎のDESIGN FROM SCANDINAVIA

北欧に造詣の深い、ジャーナリストの萩原健太郎さんをお招きして、北欧デザインやライフスタイルについてうかがいます。毎月1回、第4金曜日の更新です。


第三回

ストックホルムの渋滞を解消した「スーパー楕円」


「愛とは何か。愛とは、パイナップルのよう。甘いようで、でも不確かで」

 

このロマンチックな詩の一節は、デンマーク人のピート・ハインによるものです。彼は詩人をはじめ、多くの肩書きを持ちますが、僕が最初に知ったのは、数学者、デザイナーとしての顔でした。

 

スウェーデンの首都・ストックホルムの中心部に、「セルゲル広場」という場所があります。
中央駅に近く、オフィスビルや商業施設が建ち並ぶこの一帯は、1950年代、慢性的な交通渋滞に悩まされていました。
そこで行政は問題の解決を、哲学、美術、理論物理学などの知識を有する博学のピート・ハインに託します。
そして1959年、彼が導き出した答えが、「スーパー楕円」だったのです。
楕円と長方形の中間の形状により、自動車の運転は、ブレーキの操作やハンドリングがスムーズになり、渋滞の解消につながりました。


スーパー楕円に設計し直された「セルゲル広場」(2014年撮影)。広場に隣接する建物「Kulturhuset」の上階からよく見えます。


その後、「スーパー楕円」は、
1968年に開催されたメキシコシティーオリンピックにおいて、サッカー日本代表が銅メダルを獲得した競技場「エスタディオ・アステカ」、
デンマークのフリッツ・ハンセン社のテーブルの天板や、ペンダントランプ「スーパーエッグ」など、
さまざまなかたちで応用されました。
普遍的なデザインは、あらゆるものに通ずるということを証明したのです。


メキシコシティーの競技場「エスタディオ・アステカ」
(Google マップより)


デンマークのフリッツ・ハンセン社のテーブル
(FRITZ HANSENのウェブサイトより)


ペンダントランプ「スーパーエッグ」。第一回のコラムで書いた、NHKEテレの名作照明ドラマ『ハルカの光』にも登場
(ROYAL FURNITURE COLLECTIONのウェブサイトより)


ピート・ハインの他の発明、デザインとしては、ドイツの物理学者・ハイゼンベルクの「量子力学」の講義中にアイデアを思いついたといわれる知育玩具「ソーマキューブ」などがあります。


「ソーマキューブ」。7個の立体のピースを3×3×3の立方体に組み上げる立体パズル
(Piet Heinのウェブサイトより)


優れたデザインというのは、見た目や姿形、機能性だけでなく、時には学びをもたらしたり、生活を便利に、豊かにしたりできるということをピート・ハインから教わった気がします。

 

 

萩原 健太郎


萩原 健太郎

http://www.flighttodenmark.com
ジャーナリスト。日本文藝家協会会員。1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。著書に『北欧の絶景を旅する アイスランド』『フィンランドを知るためのキーワード A to Z』(ネコ・パブリッシング)、『北欧とコーヒー』(青幻舎)、『にっぽんの美しい民藝』『北欧の日用品』(エクスナレッジ)、『北欧デザインの巨人たち あしあとをたどって。』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『ストーリーのある50の名作椅子案内』『ストーリーのある50の名作照明案内』(スペースシャワーネットワーク)などがある。


店長カトーより

 

丸と四角のあいだ、というとらえがたい不思議な印象のスーパー楕円も、まるで愛やパイナップルのようですね。哲学や詩や数学といった抽象度の高い物事を扱っていたピート・ハインが、建築物というとても大きくて市民に身近な実体を作ったというのもとてもおもしろいです。


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