北欧に造詣の深い、ジャーナリストの萩原健太郎さんをお招きして、北欧デザインやライフスタイルについてうかがいます。毎月1回、第4金曜日の更新です。
萩原健太郎のDESIGN FROM SCANDINAVIA 第九回
第九回
木をまとうウォッチ「AARNI」
北欧のものづくりといえば、木のものを思い浮かべる人は多いと思います。
でも一言で「木」といっても、たとえばデンマークの家具は、ビーチ材やオーク材がよく使われますし、フィンランドでは、アルテックの家具に代表されるように、バーチ材が中心です。
フィンランドでは他にも、照明ブランドのセクトデザインのランプシェードもバーチ材ですし、伝統的なククサ(ラップランドに住むサーミ人から伝わる木製のマグカップ)はバーチ材のコブをくり抜いてつくられます。
アルテックの「スツール 60」
ククサ
なぜ、フィンランドではバーチが使われるのでしょうか?
“森と湖の国”といわれるように、フィンランドは国土の約7割を森林が占めています。日本も同じくらいの割合なのですが、大きく異なるのが樹種の構成です。
日本の場合、ケヤキ、クリ、カシ、クスノキなどの広葉樹、スギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹と、非常に種類が豊富です。
一方のフィンランドは、パイン(松)、スプルース(トウヒ)、バーチ(白樺)で約99%を占めるといわれています。ちなみに、バーチはフィンランドの国樹です。
アルテックの家具がバーチなのは、「身近にたくさんあったから」という、実にシンプルな理由なのです。
アルテックが創業した1930年代、フィンランドは産業基盤が十分に整っておらず、輸入品は高価でした。そこで建築家、デザイナーで、アルテックの創業者の一人でもあるアルヴァ・アアルトは、地元の素材を調達することを第一に考え、家具材として一般的ではなかったけれども、バーチを使うことにしたのです。
サステイナビリティという概念が生まれるはるか前のこと。先見の明があったのです。
前置きが長くなりましたが、フィンランドの腕時計のブランド「AARNI(アアルニ)」も、現代の北欧を代表するサステイナビリティのものづくりをする企業といえるでしょう。
アアルニの腕時計のバンドには、フィンランド産のバーチをはじめ、エボニー、オーク、ウォルナットなどが使われていますが、それらはすべて森林破壊に加担することのないよう、植生地や原産国が明確に証明されているものを使用しています。
さらに、それらの木の部分は特殊なオイルで軽く処理するのみで、無垢材に近い状態のまま、経年変化を楽しめるようにしています。
「アアルニ」のコレクション
小さな頃から一緒に森で遊び、大人になってからはサウナで腕時計への情熱を語り合った3人の元男の子たちは、“自然”と“腕時計”という大好きなものを掛け合わせた「アアルニ」を誕生させたのです。
幼馴染の3人の創業者、Pyry, Niklas & Samuli
P.S.
実際につけてみた感想としては、金属のバンドのような冷たさはなく、さらっとしていて心地よく、あたたかみも感じて、そして軽い。バンドの長さの調整は付属のミニドライバーで行うのですが、それもクラフトっぽくていい。もし、僕が一つを選ぶなら、「Sirius」シリーズのベルトがウォールナットで、文字盤がブルーのもの。パーティーなど、外出の機会が増えるこれからの時期に、さりげなく個性を発揮できるアイテムとして重宝しそう。あと、化粧箱にまで木材がはめこまれているのは嬉しい。ギフトに贈っても喜ばれると思う。
個人的に欲しい、「Sirius」シリーズ
萩原 健太郎
萩原 健太郎
http://www.flighttodenmark.com
ジャーナリスト。日本文藝家協会会員。1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。著書に『北欧の絶景を旅する アイスランド』『フィンランドを知るためのキーワード A to Z』(ネコ・パブリッシング)、『北欧とコーヒー』(青幻舎)、『にっぽんの美しい民藝』『北欧の日用品』(エクスナレッジ)、『北欧デザインの巨人たち あしあとをたどって。』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『ストーリーのある50の名作椅子案内』『ストーリーのある50の名作照明案内』(スペースシャワーネットワーク)などがある。
店長カトーより
木を使っていながらも素朴になりすぎず、かといって華美にもなりすぎず、絶妙な塩梅のデザインに落とし込んでいるのがAARNIの魅力だと思います。男性がカジュアルなジャケットの袖口から覗かせているのもチャーミングだし、女性がナチュラルな雰囲気のワンピースに合わせるのもテイストがマッチしていてすごく素敵です。