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アイスランドへの憧憬と願望

アイスランドについて、もっと知りたい!と思っていた。今のところ私のアイスランド観はビョークと『北北西を曇と往け』(入江亜紀 著)で出来ている。

『北北西を曇と往け』はKADOKAWAのハルタという雑誌で連載中のコミックで、アイスランドを舞台に17歳の少年がとある男の行方を追うジュブナイル・ミステリー。登場する現地の人たちの確立した個人としての生き方が魅力的だし、主人公が車を駆って巡るアイスランドの景色が実に美しくて素晴らしい。この空気を吸いに今すぐにアイスランドに行きたくなって個人的にいま旅行を計画している。続きを心待ちにしている作品で、心からおすすめする。

ビョークは今から20年前に『ホモジェニック』というアルバムを初めて聴いて以来ずっと活動を追っている。彼女が主演および音楽を手掛けた映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も2000年の公開当時に観て大きな影響を受けた。劇中歌のトム・ヨークとのデュエット”I’ve Seen It All”は今も時折口ずさみ、ビョークの演じたセルマという女性に想いを馳せる。私はいわゆるミュージカル脳で、セルマのように音楽と共に生きていて、嬉しい時や哀しい時、驚いた時、その時々で音楽が頭の中に流れて心を穏やかに保ってくれる。

北欧出張で合同展示会に行くと、最近少しずつアイスランドの製品を見掛けるようになってきた。今年の1月にスウェーデンでアイスランドから来たという出展者の方たちと話をしたら、みんな小さな規模で製品作りをしており、作風もなかなかアバンギャルドで、価格も高めなことが多かった。正直アイスランドには興味がとてもあるのだが、諸条件を考えあわせるとなかなか輸入に踏み切れなかったりする。本当はとてもやりたいのだ。条件面もあるが、情報も手に入れづらい。逆にそれが憧れの気持ちを大きくもしていくのだが。

と、アイスランドについてもっと知りたいな、と思っているところに、日本でアイスランド映画の上映があると教えてもらって、すごく個人的にタイムリーで嬉しかった。タイトルは『たちあがる女』。いかにも勇ましそうで、しかも女性が主人公だ。アイスランドといえば世界男女平等ランキング首位を5年連続で獲得しているし、現在の首相は女性が務めており、多様性を受け入れ個性を尊重しジェンダー平等を目指していると聞く。今、アイスランドがこのテーマで作品を発信することは大きな意味がある。現に、すでにジョディ・フォスターが監督(!)と主演を務める形でハリウッドリメイクが決まっている。「セルロイドの天井」と言われるハリウッドで、女性が監督を務める。彼女自身もまた「たちあがる女」だ。楽しみだ。

前置きが長くなってしまったが、アイスランド映画『たちあがる女』だ。


【ストーリー】(公式サイトより引用)
風光明娼なアイスランドの田舎町に住むハットラは、セミプ口合唱団の講師。
彼女は周囲に知られざる、もうーつの顔を持っていた。
謎の環境活動家”山女”、として、密かに地元のアルミニウム工場に対して、孤独な闘いを繰り広げていたのだ。
そんなある日、彼女の元に予期せぬ知らせが届く。
長年の願いだった養子を迎える申請がついに受け入れられたのだ。
母親になるという夢の実現のため、ハットラはアルミニウム工場との決着をつけるべく、最終決戦の準備に取り掛かる―。(引用おわり)

私の乏しいアイスランド観を深堀してくれるような、美しい景色と確立した個人の強さ、そして音楽。この音楽の在り方が本当にユニークでユーモラスですごく素敵。主人公ハットラの心象や状況に合わせて、3人の男性と3人の女性が演奏や合唱を生み出す。音楽隊の彼らは背景として物語を支えているのかと思いきや、しかし群衆のひとりのように生っぽい振る舞いもしていて(この瞬間はかなりハッとした)、不思議な立ち位置を保っている。時には主人公と目線をしっかり合わせ、主人公の決心を表す頷きとともに鼓舞するような演奏を始めたり、主人公の起こした行動をSNSで拡散して「協力」したりもする。この人間くささに妙に懐かしさを覚えて、グッと作品に引き込まれてしまう。

冒頭、主人公ハットラは鉄塔に向けて矢を放つ。よく晴れた景色の美しさもあいまって、どこかユーモラスに感じられるのは、きっとドン・キホーテを想起させるからだろう。彼は風車に向かって剣を構え、人々に道化師として笑われ続けてきた。風車は動かしがたい強固な現実の象徴であることは風車も鉄塔も同じだ。ハットラは自分のしたことを正しいことと強く信じて揺るがない。人々が環境活動家として起こした彼女の行動を非難しても真っ向から反論する。それぞれの正義の話で、人の数だけ正義はある。そして同じ数だけ苦悩がある。それでも、自分の守るべきもののために彼女は自分を信じて行動を続けるのだ。それがどれだけ孤独であろうとも。

シンプルに、その強さが欲しいと思う。
その強さはどうやって得られたのだろうか?
アイスランドという場所はそれに関係する?
今までと違う視点から、アイスランドのことをもっと知りたくなった。
知らずに見たら気づけないことも、きちんと見つけることができるように。

そうだ、ひとつ気づいたことがある。主人公ハットラが環境活動家として行った行動が世間から批判される場面がある。この際に、その行動を指してノルウェーのテロ事件の犯人アンネシュ・ブレイビクのようだと言われて主人公が大きなショックを受ける。私はちょうど2日前に『ウトヤ島、7月22日』を観ており、まだそのテロ事件の生々しさが胸にわだかまっていた状態だったので、この発言の重さがダイレクトに響いた。3日前だったらきっとサラリと流していただろう、けれどウトヤ島で起きたことを映画を通して感じた今、ハットラの受けたショックがよくわかる。映画での経験を通して映画の経験を深めたのだ。今後もどんどん映画を観ていこう。見えないものが見えるようになるのは、私にとって至上の歓びなのだ。


『たちあがる女』
監督:ベネディクト・エルリングソン
2019年3月9日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
配給:トランスフォーマー
http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/

2019年アカデミー賞アイスランド代表作品
2018年カンヌ国際映画祭批評家週間劇作家作曲家協会賞受賞

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